今年は花粉症が殊にひどくて、休日も外出を控えていたのだが、気が付くとソメイヨシノはすっかり散ってしまっていた。
いまいましい花粉症のせいで、今年は花見の機会を逸してしまったようだ。
今咲いているのは、ソメイヨシノに較べると人気のない八重桜ばかりだ。
もっとも、私はこの八重桜が結構好きなのだ。
というのは、子供の頃、実家に八重桜の木があって、それがあたり一面うす桃色の花を散らして、むさくるしい下町の風景を一時(いっとき)華やかに彩っていたのを思い出すからだ。
その木は、私が生まれたときに母方の祖父が新潟から八重桜の苗を持って出てきて、植えたもので、私にとって特別な意味を持つ木だったのだが、実家を建て替えるときに、あっさり伐られてしまった。
もし伐られずにいたならば、今頃はさぞかし立派な古木になっていただろうと思うが、今はその実家の敷地も人手に渡って、ミニ開発の建て売り住宅に変わり、そこに八重桜の木があった事を示す何ものもない。
現在、私が住んでいる高層団地の敷地にも何本かの八重桜があるのだが、皆まだ細く若く、うす桃色の花びらで街を彩るにはまだまだ年月を必要とするように思われる。
結局、私は思い出の中に引きこもって、八重桜の花吹雪を見るの事になるのだが、思い出というのは、何と美しいものなのだろうか。


