盗まれたと思っていた娘の自転車が、忘れた頃になって区の自転車集積所から出てきた。
何のことはない、駅前に自転車をおいて遊んでいるうちに放置自転車として撤去されていたのだ。
すっかり盗まれたものと思いこんで、娘には既に新しい自転車を買い与えてしまっていたので、昨日、自転車集積所で保管料2000円也を支払って請け出してきた自転車は、家族で唯一人自分の自転車を持っていなかった私のものになった。
中学の3年間を娘の足となって過ごした、自転車はかなり草臥れた容姿だったが、走らせてみれば走る、止まる、曲がるという基本的な機能には問題はなく、なかなか快適だった。
これといった用事もない日曜日の午後、天気もいいことだし、健康のために少しは体を動かして見ようかと、娘のお下がりの自転車を漕ぎ出した。友達とね、葛西の方に行こうと思ってずっと走っていったんだけど、道がわかんなくなっちゃって、橋を渡ってずっと行ったら、松戸に着いたんだよ。と今は高校生になった娘の話を思い出し、しかし、うちから松戸までは自転車で行くには遠すぎる距離だ。いや、そもそも葛西だって、かなりな距離がある。むちゃだな。若いと言うことは、そういうことなんだな。などと考えながらペダルを漕いでいるうちに、隅田川を渡り、都内では珍しいスーパー堤防の上に出た。
川岸の、大きく空が開けた道を風の音を聞きながらゆっくりと走り、堤上のコスモス畑のあたりに自転車を止め、シロツメクサの花の上に寝ころんでみた。


