2005年11月アーカイブ

左足の薬指

 朝、起きぬけに畳の上においてあった小物入れに足の薬指を思いっきりぶっつけてしまった。
 月に一度の土曜出勤の朝、冷たい雨の中を足を引きずりながらの出社。
 昼休み、土曜出勤の日は昼食として会社から弁当が支給されるのだが、お茶を配ろうとしたT嬢(会社で一番年若のデザイナーさん)がお盆をひっくり返してしまった。
 皆がお弁当を食べている間、ずっと更衣室に閉じこもっていたTさんがようやく自分のMacの前に戻ってきたとき、その顔には涙の跡がはっきりと見て取れた。
 どんな風に声をかけたらいいものか?、いや、こんなときはそっとしておいてあげるべきなのか?
 考えあぐねて、その挙句、曖昧な微笑を向けただけで、声をかけてやることもできずにいた。
 会社からの帰り道、傘を会社に置き忘れたことに気がついた。  左足の薬指が、じん、と痛んだ。

ボックスシートの幸せ

 思いがけないアクシデントの続く一日が終わって、会社を出たのはいつもよりだいぶ遅い時間刻だった。
 浅草駅のホームに入ってきたのは、いつもの通勤電車ではなく、日光方面への快速電車として使われる車両だった。
 時間が遅いせいか乗客も少ない。ボックスシートに腰を下ろすと、なんだか、これから遠い旅にでも出るような気分になってきた。
 窓の外を灯りが流れるのを眺めながら、子供の頃を思い出す。
 信越の山奥にある母の実家には、上野駅から夜汽車に乗って行くことが多かった。
 窓の外を、遠くの明かりはゆっくりと、近くの明かりは流れるように過ぎ去っていく。
 それを、子供の私は窓ガラスに顔をくっつけて、飽きることもなく眺めていた。
 車内は暖房が効いて暖かかったが、露をいっぱいつけた窓ガラスは冷たくて気持ちよかった。
 不思議なもので、列車から降りてから母の実家までどうやって行ったとか、田舎の家でどんな事をしたかと云うような事はおぼろげにしか覚えていないのに、列車の窓に顔をくっつけて眺めていた景色とか、車内の雰囲気というものは実にはっきりと覚えている。
 十数分の短い旅だったが、少しだけ幸せな気分になれた。
 降り際にちょっと窓ガラスに触れてみた。
 露はついていなかったが、冷たくて気持ちが良かった。

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