街路灯の青白い光の中にぼんやりと浮かぶ後姿はきっと私の妻に違いない。
声をかけてみようかと思ったが、妻との距離は200メートルもあろうか、多少は大きな声を出さなければ届かないだろう、と思ってやめにした。
今日は仕事が遅くなった。すでに通りは人影もまばらで暗く寂しい。
この通りも昔は賑やかで活気があったのに、ずいぶんと寂しくなったものだなどと考えながら歩いているうちに妻との距離はぐっと縮まったようだ。
両手にスーパーの袋を重たそうに提げて歩くその姿はなんだか貧乏臭く見える。
も一度声をかけようと思ったが、なんと声を掛ければよいのか思いつかなくて、やめにした。
そういえば結婚して20数年になるが、今まで妻の名前を呼んだことがない。「ねぇ」とか「さぁ」とか、子供ができてからはもっぱら「おかあさん」だった。子供がいない場所で「おかあさん」はおかしいし、なんだか恥ずかしいような気がする。どうしたものかと考えているうちに、とうとう追いついてしまった。
横に並んで妻のほうを振り向くと、きゃっと小さく叫んで「ストーカーかと思った」とのたもうた。
黙って重そうなスーパーの袋の片方を取りあげる。妻の右肩が少し浮き上がり、私の左肩が沈む。そうして肩を並べて歩いた。
こうやって二人で歩くのは久しぶりだなと思った。
2006年5月アーカイブ
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